銀座には林二郎お気に入りのレストランが
ありました。
それがこの『煉瓦亭』です。
毎日一度はお肉を食べていた林二郎ですが、
銀座で展覧会開催中などは必ず煉瓦亭で
カツレツを注文していました。
展覧会詰めをしていた弟子の私達にも「煉瓦亭に行きましょう」と連れていってくれましたが、
師が煉瓦亭にこだわるのは、ただ単にカツレツが美味しいだけではありませんでした。
なんと『煉瓦亭』と『林二郎』の歳が同じだったのです。
明治28年(1898年)銀座5丁目で生まれ育った林二郎、同年同じ銀座の3丁目で産声をあげた煉瓦亭。
その昔“煉瓦街”だった銀座を愛した林二郎が煉瓦亭をお気に入りだったのは必然だったように思いま
す。
ある夜、林家に電話がかかってきました。
遠方に住む、かつての木彫教室生徒さんから「いま林先生とお会いしました!」ととても嬉しそうに。
しかし二郎はこの時自宅で夕食真っ最中でご家族はけげんな表情。
すると「いまテレビの煉瓦亭さん取材の番組に林先生が出演していました!」とのこと。
ちょうど煉瓦亭さんに、まもなく開店100年を記念するテレビ取材が入ったところに、
一人でカツレツを食べに行った林二郎がいて、
「こちらも煉瓦亭と同じ、銀座生まれでまもなく100歳になられる方です」とオーナー夫妻に紹介され
テレビに出演したのでした。
二郎本人はまったくテレビなどには関心がないため、帰宅後もそんな話は一切なく、ご家族も我々も
とにかくビックリするばかりでした。